本年度は、ドイツの音楽科教育における学力の捉えについて、音楽科学習指導要領の到達目標の内容を精査することによって明らかにした。研究方法としては、ドイツ各州の音楽科学習指導要領を参照し、ドイツ全体を捉えながらも、州による教育の差異を考慮し、バーデン・ヴュルテンベルク州、ブレーメン州、ニーダーザクセン州、ザクセン・アンハルト州、テューリンゲン州の5つの州に限定した上で、音楽科学習指導要領に示された到達目標の内容を精査した。 まず、ドイツ全16州の音楽科学習指導要領における到達目標の提示方法を分類した。その結果、①国家レベルの教育スタンダードの影響を直接的に受けた「スタンダード型」、②スタンダードという文言は使用しないもののコンピテンシーを示すことによってその代わりとする「コンピテンシー型」、③到達目標を明確には明示しない「学習内容型」の3つに大きく分類できた。本年度の研究では、スタンダード型およびコンピテンシー型をとる州のうち、到達目標の提示学年が2学年ずつにまとめられている先述の5州に焦点を絞った。 到達目標の内容を、(A)音楽の知覚・理解、(B)音楽の形成、(C)音楽の思考、の3領域に整理した上で、5州の検討を行った。その結果、義務教育段階修了時の学力の重点領域が州によって異なることが明らかとなった。バーデン・ヴュルテンベルク州は(A)の割合が最も高い「構成理解重視タイプ」、ブレーメン州は(C)の割合が高い「社会的考察力重視タイプ」、ザクセン・アンハルト州は(B)の割合が最も高い「実践的技能重視タイプ」であった。他の2州はどの領域もバランスよく配置した「バランスタイプ」といえる。このことから、国家レベルの教育スタンダードをもたない音楽科は、州によって目指す学力の方向性が拡散していることが明らかとなった。
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