平成22年度は、授業開発の前提となる「わが国の社会科公民教育の問題点の分析」と「米国キャラクターエデュケーションにおける公民と道徳の統合の論理の解明」を行った。 「社会科公民教育の問題点」については、特に高等学校における倫理教育に関する学会参加や教育現場の研究協力者からの聞き取り調査を実施し、「社会認識教育と道徳教育の統合の困難性」、「閉ざされた価値観注入の危険性」、「倫理学ダイジェストに陥る可能性」といった問題を明らかにした。そして、それらの研究成果の一部を図書『公民教育』(担当第6章第3節「倫理」教育の諸問題.論争点)として発表した。 「米国キャラクターエデュケーションにおける公民と道徳の統合」については、「子どもの道徳性発達論」と「憲法が提示する道徳的価値」にもとづいて単元が構成されていることを明らかにした。具体的には、米国の小学校教員B・ルイスが開発した教材『What DO You Stand For?For Kids : a guide to building character』における単元「公正」を洋細に分析した。その結果、本単元が「認知発達心理学者W・デーモンの公正概念の発達論」にもとづき「合衆国憲法が提示する道徳的価値(個人の尊重)」を教えていることが明確になって。筆者は、本単元のような「憲法が提示する道徳的価値」を「子どもの道徳性発達論」にもとづいて教育する米国キャラクターエデュケーションのスタイルを「立憲主義道徳学習」と捉えた。そして「立憲主義道徳学習」に関する研究成果を各種学会(法と教育学会、全国社会科教育学会等)において積極的に発表した。 我が国においては「立憲主義道徳学習」という発想はなく、学会においても多くの教育実践者、研究者、法学者から反響をいただいた。この論理を解明していくことは、米国と同様に法の支配(憲法の支配)による社会づくりを行っている我が国の子どもの市民性教育のあり方を考えていくうえでも意義深いと考えられる。
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