本年度は研究最終年度にあたり、発達障害児のキャリア教育に関して、自己調整力の育成方法について研究した。その結果、重度の知的障害児の場合、「感覚的な遊び」の段階の子どもがいるが、こうした子どもに対しては、「感覚的な楽しみ」を保障しながら、その遊びに少しずつルールを付け加えていくことが大切であった。 たとえば、紙を破ったり、ちぎったりするのが好きな子どもをであれば、紙が破れるときの音や感触が好きで、あたりかまわず破れそうなものがあれば手にとって塵にするという「遊び」をしている。こうした感覚遊びが好きな子どもの中には、大切な書類やみんなで栽培している草木などもちぎってみたいと思う対象となり、大人の側からすれば、少し困った行動となる。こうしたときに、「子どもが強くやりたい!」と思っている行動を、「それはダメ!」と強く否定するのではなく、「ちぎってよい紙」をわかりやすく置いてみたり、「紙ちぎりコーナー」を家や教室につくるなど、「紙をちぎる遊び」をルールのある中で実現するようにもっていくことが重要であった。このように、大人の側が許容できる範囲を広げたり、時にはルールを守るように子どもに説得(あるいは制止)を試みたりして、「子どものやりたい紙ちぎり」と「大人が認められる紙ちぎり」が一致させられないか模索することが必要であると考えた。 以上から、「キャリア」とは「自己の価値と社会(他者を含む)の価値が一致すること」であり、「そうした一致(価値)を積み重ねていくこと」であると考えられる。すなわち、子どもと大人の間で「紙ちぎり」の妥協点を見つけ出すように、働く力の原点にあるのは「自分と社会(他者)を一致させること」であると考えた。
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