研究概要 |
前年度の予備調査の成果をふまえ、本調査を実施した。健常児の6歳児(幼稚園年長)と9歳児(小学3年生)を対象とし、見立て描画課題を行った。また、知的障害児では5名に対して、プランニングの分析を試みた。その概要は次の通りであった。対象児の制作行動は,素材を探す(探索),素材を貼付したり,描画したりする(構成)が見られた。これらの行動指標を用いて,プランニングは2つの手続きを経て同定された。まず,制作過程を教示中から最初の構成の前まで(構成前期)と,構成の開始から終了まで(構成期)に区分した。次にそれぞれの区分期における探索を評定した。画用紙にシールを貼付することは不可逆的行為であり,後で修正できない。従って,シールへの働きかけは,プランニングを反映していると考えられる。探索は,制作行動を一時的に停止する(停止:2秒以上でかつシールへの注視を含む),シールを選択する(選択),シールを画用紙上に配置する(予期配置),シール同士を組み合わせる(予期合成)の4種に分類できた。他に,これらの探索が見られない,例えば,シールを手当たり次第に取り扱う行動を「探索なし」とした。分析の結果、対象児のうち2名は,制作中に探索が示されず,作品も典型的な見立てによる表現であった。従って,十分なプランニングが行われていない可能性が示唆された。構成前に探索が示されなかった他の2名は,構成し始めると探索が観察されたことから,遂次的な局所プランニングを行っていたと考えられた。残りの1名は,構成前期と構成中ともに探索が示された。作品特性は,シールの使用枚数が多く,デザイン性のある表現であったことから,大局プランに従って,局所プランニング(シールの合成の検討)を行ったと推察できた。これらの結果から,知的障害児の造形表現において,十分なプランニングが表現の向上を規定する主要因であると考えられた。
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