本年度は,知的障害児のプランニングを援助する方法について,2つの観点から検討した。1つ目は,プランニングに「直接的に働きかけるアプローチ」であった。対象は,Watanabe(2011)の見立て描画において,制作対象を一般的に見られるような色や形で表現する典型表現の作品を制作した知的障害児5名であった。彼らは,衝動的に制作を始め,プランニングが不十分であったことが,典型表現の主要因と推定されていた。プランニングの援助方法は,制作前に素材である型紙シールの合成方法をカードで例示することと,テーマの解釈と構図を練ることを教示することであった。その結果、4名はデザイン性や物語性が加味された新奇表現の作品を制作することができた。他の1名は,典型表現を継続した。援助経過から,このような「直接的に働きかけるアプローチ」によって,プランニングの慎重さを促すと,問題解決が向上する可能性が示された。しかし,同課題を約1ヶ月後に援助なしで行うと,5名とも衝動的な制作に戻っており,プランニングが定着しなかった。そこで,2つ目の観点として,プランニングに「間接的に働きかけるアプローチ」を検討した。具体的には,外的評価の予告を利用し,子どもが自ら慎重なプランニングを行うように援助する方法を考案した。この方法について,見立て描画課題を用いた健常児による予備調査では,9歳になると,外的評価の予告条件では,予告なし条件よりも,プランニングを慎重に調整し,外的評価に含まれる評価基準に従った問題解決を行った。この結果をふまえ,軽度の知的障害のある生徒2名に対し,外的評価を告げない制作の後に,予告を行うと,その制作前のプランニングがより慎重になる傾向が見出された。しかし,作品の表現には変化が見られず,評価基準に従った問題解決は示されなかった。今後,この機序を解明し,援助方法を洗練させる必要があると考えられた。
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