研究概要 |
本研究では,反応の乏しい重度脳障害事例を対象に,生理指標を活用した感覚・認知機能評価にもとづいて,獲得機能と療育環境との関連性についての検討,および療育環境の効果に関する実践的検討を行い,これらの検討を通して,発達ニーズに対応しうる療育環境の構築を行うためのプログラムを策定することを目的とする.この目的のもと,本研究では「大島の分類」1~4に該当し,行動上の応答が不明瞭な重障事例を対象として研究を実施した.対象事例は,学齢期の重障児2例と,成人重障者2例であった.本年度前半は,各事例の感覚受容に関する資料の収集を行った(課題1),心拍指標を用いて聴覚,視覚,体性感覚における評価を実施した.結果,いずれの事例についても刺激の受容ができていること,しかしながら能動性の発達水準に,個人差および感覚系による差がみられることが確認された.本年度後半は,課題1において調査した各事例の感覚機能の発達水準と,日常の療育環境との関連性について検討した(課題2).療育活動場面およびベッドサイド場面においてVTR記録および心拍測定を実施し,刺激環境の分析と心拍変動解析を行った.その結果,いずれの療育環境も聴覚への働きかけに偏る傾向があること,学齢期の重障児は各感覚系への応答の不明瞭さに関わらず,療育活動場面において成人重障者より量的,質的に豊かな働きかけを受けていることが明らかとなった.しかしながら,課題1において各感覚系への応答が明瞭な成人事例では,ベッドサイド場面においても質的に多様な刺激環境となっており,事例の持つ高い能動性が療育スタッフの働きかけを惹起していると思われた.これらの結果は,(1)成人重障者は学齢期の就学重障児と異なり,刺激環境に発達ニーズおよび教育的意図が反映されにくいこと,(2)能動性の発達水準と周囲の刺激環境との間に相互作用があること,を示すものであった.
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