従来,聴覚障害生徒における語の意味の理解や使用上の課題については,おもに単独の名詞や動詞に焦点をあてて検討がなされてきたが,両品詞の共起性(文における意味的な結びつきやすさ)に焦点をあてて検討を行った研究はない。名詞と動詞の共起性判断は,両品詞間の意味的整合性の分析をもとになされ,その分析能力は言語に関する経験や知識といった要因の影響を受けると考えられる。そのため,聴覚障害生徒による共起性判断の傾向は,健聴者のそれと異なると予想される。本研究課題では,聴覚障害生徒と健聴者を対象として,名詞と動詞の共起性判断について検討することを目的とした。平成22~23年度は,健聴者を対象として予備調査を実施し,聴覚障害生徒を対象とした本調査で使用するための課題語(名詞20語,動詞10語)を抽出した。そして,平成24年度に聴覚障害生徒を対象として,名詞と動詞の共起対を産出させる課題を実施した。分析の結果,健聴者による共起対の産出数が聴覚障害生徒のそれを大きく上回り,聴覚障害の有無が名詞と動詞の共起性判断に影響をおよぼすことが明らかになった。また,学年が進行しても,聴覚障害生徒における共起対の産出数は増加傾向をみせず,共起性を判断する能力が中学校段階では顕著に発達しない可能性も考えられた。あわせて,聴覚障害生徒および健聴者ともに,共起対の産出のしやすさは動詞の活用形や自他の種類によって異なった。さらに,マトリックスを用いて共起対のパターン分析を行ったところ,聴覚障害生徒による名詞と動詞の共起性判断は,健聴者ほど柔軟性に富まず,固定化している傾向が示された。だが,学校生活場面を想起させるような文脈においては,特定の共起対が健聴者よりも多く産出される傾向がみられた。これらの分析結果から,聴覚障害教育の現場において,語の意味拡充をうながすような言語指導の必要性が改めて確認された。
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