研究課題/領域番号 |
22730722
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研究機関 | 共愛学園前橋国際大学 |
研究代表者 |
松本 学 共愛学園前橋国際大学, 国際社会学部, 准教授 (20507959)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 疾患・病気療養 / 親子関係 / 心理的介入 / 縦断的研究 / 口唇裂口蓋裂 |
研究概要 |
発達のごく早期段階に,口唇裂口蓋裂児がどのような心理社会的発達をたどり,発達にどのような特異性があるのか,またこの特異性によって母子の心的状態や関係性がどのような影響をうけ,それが患児の発達にどのような影響を及ぼしているか,について明らかにするため、出生から1歳6ヶ月までの期間における口唇裂口蓋裂児や母親の心理的特性,児と養育者との関係性,家族環境,養育者・家族のCL/CP経験の意味づけといった多元的な指標を用いた縦断的調査を実施した。研究協力者は,治療のために来院した児母子・家族(口蓋裂群・口唇裂群・口唇口蓋裂群)であった。調査に当たっては病院外来で主治医から本研究の説明を行ない,書面で同意を確認したうえで調査を実施した。調査は自由遊び場面の観察、母親に対する質問紙調査(患児の気質,育児ストレス,母親の抑うつ傾向,母親が家族内外から得られる情緒的なソーシャルサポート)、母親およびその他の家族への面接調査である。調査は、乳児が1-3ヶ月齢、5-7ヶ月齢、11-13ヶ月齢、17-19ヶ月齢の4時点で行われ、2012年度までに51組の母子が研究協力者となった。2012年度の結果は「先天性疾患が出産後の母親に与える心理的影響:口唇裂・口蓋裂乳児の母親における抑うつ得点の2点間比較」として共愛学園前橋国際大学研究紀要に発表された。また、2013年3月に行われた日本発達心理学会では、「先天性疾患が出産後の母親の心理的状態に与える影響 生後3ヶ月と6ヶ月の2点間における母親の抑うつ得点についての比較」として発表した。2013年度も引き続き研究の継続に努めるとともに、今までの知見の整理とさらなる研究発表につとめたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2010年度から現在に至るまで、東北大学病院形成外科・顎口腔機能治療部との密接な連携の下、口唇裂口蓋裂児母子の継続的な調査面接が順調に行われている。東北大学病院顎口腔機能治療部を受診したCLCP乳児(男児41名、女児32名)とその母親73組に外来にて研究協力の依頼を行い、51組(男児31名、女児24名)の母子について承諾を得て研究を行った(2013年2月1日現在)。 その結果、母親の心理的状態について、本研究で得られた知見からは、生後3ヶ月時点よりも生後6ヶ月のほうが母親の心理的状態は改善していることがみてとれた。また生後3ヶ月時点で抑うつ傾向の見られる母親は生後6ヶ月においてもその状態を維持していた。現状で抑うつ傾向を高める要因として、まず、出産とその前後の状況が考えられる。疾患についての知識がない場合には、告知を受けた場合に、医療職からの丁寧な説明がない場合には混乱するケースが見受けられた。なお、こうしたケースは、その後複数診療科において説明を受けるにつれて混乱が収束していくように思われた。医師らの丁寧で根気強い説明が大きな効果を生んでいること、さらに口蓋裂学会作成の養育者向けの手引きを配布していることで、診察時だけではなく、両親が不安を感じたときに見返すことができることが、両親の安心に寄与していると考えられる。 今回の調査での新たな発見として、妊娠中にCLCPの告知を受けている母親は全体の27.9%に上ったことがあげられる。この数字は、我が国における他の報告(中新ら、2002; 足立・幸地,2008)の7%と比べて高くなっているが、欧米圏の研究のレビューでJones(2002)が報告した数値(14-25%)と近く、我が国でも近年上昇傾向にある可能性が指摘できる。このため出生前診断の有無、裂型やその他の要因についても比較検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き東北大学病院での調査研究を継続し、知見の収集と分析、発表、論文執筆に努めたい。 その際、CLCP児の母親の抑うつ傾向発生のメカニズム解明のために、CLCPの重症度が母親の心理状態に与える影響、さらに母親と家族との関係性や家族環境、子どもの気質などの特性、出生順位、社会経済的地位などの要因についての検討も踏まえた詳細な調査・分析が今後必要不可欠であると考えている。 また、妊娠中期から後期においてCLCPの判明・告知が起こりうること、また出産前後~生後6ヶ月頃まで母親の抑うつ傾向がそれ以後の時期と比較して有意に高いことから、今後のCLCP治療にあたっては、とりわけ妊娠期から少なくとも生後半年程度までの期間は、母親だけでなく家族に対しても丁寧な心理的ケアを丁寧に行いながら調査を行うことが必要になると考えている。こうしたケアにおいては、出産前の産科、出産後の小児科、形成外科、歯科などさまざまな診療科と密接な連携を行うことをねらいたい。
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