研究概要 |
本研究では,青年期における発達障害のある学生が抱える孤独感に焦点をあて,その背景にある要因を探る。また,当事者(発達障害のある学生またはその傾向が強い学生)の特性だけではなく,彼(彼女)らの所属する集団の集団特性にも注目し,共生の視点を支援と教育の実践に活かすことを目的とする。 平成22年度は,いくつかの評価ツールを次の観点から検討,試行した。1)人間関係上の困りや孤独感を抱える学生を見いだすアセスメントツール。2)集団特性の1つとして被受容度を表現できるアセスメントツール。 試行した尺度の1つ,Hyper-QU(河村茂雄著)は,学生の意欲や満足度,学級集団の状態を理解するために開発されたものである。予備調査段階では,この尺度における「承認得点」「被侵害得点」と,発達障害のある学生の学校生活における状況を事例的に確認した。発達障害のある学生のうち,トラブルを抱えた学生が,極端に低い承認得点および極端に高い被侵害得点を示した例があった。こうした事例では,当事者が集団において「孤立」の問題を抱えており,面談からはこうした悩みが自己効力感の低下とも関係していると推測された。逆に,既に支援対象となっている学生のうち,学校生活を楽しんでいる様子の学生は,級友に恵まれ,担任の指導も厳格で,被侵害得点は高くなかった。ただし,学業面での適応とは必ずしも一致せず,承認得点は低く留まった例が多かった。 自閉症スペクトラム指数(AQ)や孤独感尺度といったその他の尺度は,信頼性においては先行研究によって検証されているものの,全ての学生を対象とした調査に用いるには侵襲性等の面で難点があると判断し,導入までの流れを再度検討する必要があった。今後は,支援や面談等の中で行われるナラティブ・アセスメント(斎藤清二ら,2010)も視野入れ,妥当な評価方法を見定め,本調査に取りかかりたい。
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