本研究は,青年期における発達障害のある学生の抱える孤独感に焦点をあて,その背景にある要因を探った。また,当事者(発達障害のある学生または類似した特性がみられる学生)らが所属する集団の集団特性に注目し,共生の視点を支援と教育の実践に取り入れていくことを目的とした。 まず発達障害のある学生が抱える孤独感について,支援の実践における複数の事例から検討した。支援者との会話場面におけるフィールドノートの記録や教室場面のビデオ録画資料をスクリプトに起こした資料などから質的研究アプローチを行った。一例として,当事者学生が「空気を読めない」と言われる状況がどのように発生し,それが他のクラスの学生にどのように認識されていくか,といった場面分析をビデオエスノグラフィ手法を用いて行った。また,当事者学生と支援者とのある会話場面では,当事者学生がこれまでの学校生活で抱えてきた孤独感が吐露された。ある学生は,自分が考え出したキャラクターをノートの片隅に描き続けることで,それを紛らわしてきたという経験が語られた。 次に,高専におけるクラス集団の特性を検討するために,いくつかの質問紙調査を行った。特にQU(Questionnaire-Utilityよりよい学校生活と友達づくりのためのアンケート)を用いた調査は,2カ年に渡って新入生を対象に継続して実施し,詳細な検討を加えた。 研究代表者は,本研究以前に行った高等専門学校の教職員を対象とした実地調査から,「『高専』という校種は,マイナーな存在(少し風変わりな者)に対して,比較的寛容な雰囲気をもつ学校ではないか」という仮説を立てたが,QUの結果からは,クラスによっては侵害得点が徐々に高まることが明らかになり,当初の仮説がやや楽観的で,すべてのケースに当てはまるものではないことが明らかになった。
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