この研究の最初の成果である,投稿済みであった O'Grady の10次元の例についての論文が雑誌に掲載されることが決定した.O'Grady の例の研究を完成させる際には古典不変式論の知識を用いることが重要な構成要素のひとつであった.本研究と関連の深い数学的な興味として,この古典不変式論を今日の代数幾何学の諸問題へ適用する際の一般的な枠組みや,未解決の理論的問題,また,計算機代数を用いる際の技術的問題などについて考察を行なった.その成果を8月に京都大学において行なわれた第57回代数学シンポジウムにおいて発表した.また,具体的な代数幾何学の問題に直ちに応用するという観点から書かれた古典不変式論についての文献が比較的乏しいことから,その概要について,代数学シンポジウムの報告集に記した. 既約シンプレクティック多様体の退化の問題に関しては,具体例の計算,本年度は主にK3曲面の退化族の相対的対称積を考えたときの特異点とその解消について考察した.具体例の理解は進展したが,これをどのような数学の枠組みでとらえるのが正しいのか未だに判然としない.この問題については今後も引き続き研究を続けていく. 代数曲線上の放物Higgs束のモジュライ空間に関してもその上での双有理幾何学の明示的な記述の可能性を検討した.この問題に関しては,海外からその分野を専門とする研究者を招聘し,研究打ち合わせを行なうなどして問題を解決する方向としてどのようなものがあり得るかについて討議した.
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