研究概要 |
三角圏の次元の概念は,Rouquierによって導入された。これは,一つの対象から有限直和・直和因子・シフトの差を除いて何回写像錐を取れば全ての対象が得られるかを測るもので,与えられた三角圏の"表現論的な大きさ"を表す量である。有限生成加群の有界導来圏,連接層の有界導来圏,oflovの意味での特異圏(Buchweitzの意味での安定導来圏),Gorenstein環上のCohen-Macaulay加群の安定圏等の三角圏の次元が主に調べられてきた。三角圏の次元の概念の重要性を最初に見出したのはBondal-VandenBerghである。彼らは,滑らかで固有な可換および非可換代数多様体上の連接層の有界導来圏が有限次元であることを証明し,それを用いてベクトル空間の圏への有限型反変コホモロジー関手が表現可能であることを示した。また,特異圏の次元は表現次元と密接な関係にある。表現次元は,与えられたArtin多元環が有限表現型からどれだけ離れているかを測るためにAuslanderが導入したものであり,多くの表現論研究者によって調べられてきた。Rouquierは,ベクトル空間の外積代数の特異圏の次元を計算することで,表現次元が3より大きいArtin多元環の最初の例を与えた。 さて,Rouquierは完全体上有限型の分離スキーム上の連接層の有界導来圏が有限次元であることを示した。これに対し私は,千葉木学大学院生の相原琢磨氏との共同研究で,完全体を係数体とする完備局所環上の有限生成加群の有界導来圏の次元が有限であることを証明した。これにより,特異圏の次元の有限性,および環がGorensteinの場合Cohen-Macaulay加群の安定圏の次元の有限性も従う5さらに我々の証明はRouquierの定理のアフィン版の環論的な別証明をも与えるため,大きな反響を呼んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,全反射加群の概分裂列と反変有限な分解部分圏の研究が目的だった。現在までに得た成果として,ミズーリ大学のOlgur Cehkbas氏との共同研究でAuslander-Reiten双対をCohen-Macaulay局所環上の全反射加群に一般化することができた。また,カンザス大学のHailong Dao氏との共同研究で,射影次元が有限な加群からなる分解部分圏を完全に分類することができた。
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今後の研究の推進方策 |
カンザス大学のHailong Dao氏との共同研究で,加群圏の部分圏に対する二つの不変量(次元および半径)を導入し,現在までにその有限性等に関する多くの結果を得ている。これらはGorenstein環上のCohen-Macaulay加群の安定圏のRququierの意味での次元とも密接な関係にあり,これらの研究は本研究課題に沿ったものである。一方,前項目で述べた分解部分圏の分類研究は,Gorenstein環上のCohen-Macaulay加群の安定圏のthick部分圏の分類と深い関係にある。今後は,射影次元が有限な加群からなる分解部分圏の分類において用いた環めスペクトラム上の関数を分析していきたい。
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