本年度は、アフィンヘッケ環のLLTA型定理に関する組合せ論的研究を進める一方、曲面の写像類群の構造を表現論的に調べる研究を行った。 アフィンヘッケ環のLLTA型理論は、分解係数とよばれる表現論的な量を量子群の表現に付随して現れる大域基底と呼ばれる元を用いて記述するものである。この理論は、最近急速に進展したcategorificationとgraded representation theoryの理論を用いて、Varagnolo-Vasserotにより2009年に証明された。しかし、この構成だけではその組合せ論的な詳細や有限次元Hecke環のモジュラー表現との関連性が明らかとは言えなかった。本年はそうした研究を進めるとともに、mini workshopを開催して情報交換を行い、全般的な課題の整理と明確化を図ることができた。 曲面の写像類群から得られるLie代数の準同型としてJohnson準同型と呼ばれるものがある。この構造を表現論的に調べるというアイデアは、森田茂之氏らにより1990年代から提唱されている問題であった。本年度は、自由群の自己同型群に付随するJohnson準同型について研究を進めていた佐藤隆夫氏と共同で、写像類群に対するJohnson準同型の余核の構造をシンプレクティック群の表現論を用いて解析した。その結果、森田茂之-中村博昭両氏によって得られていたSp-既約成分[k]の同定に関して新たな証明を与え、さらに、新しいSp-既約成分[1^k]を同定することができた。この研究については2つの論文にまとめ、現在投稿中である。
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