研究概要 |
ここ数年で Robin Cockett 氏(University of Calgary)と共同で「補コモナド」という構造を提唱した。これは *-自立コモナド([Craig Pastro and Ross Street, Closed categories, star-autonomy, and monoidal comonads, Journal of Algebra 321 no. 11 (2009) 3494-3520])の一般化にあたる。今年は同じく共同でこの理論の拡張と応用を研究した。特に補コモナドは "message passing logic"(Robin Cockett and Craig Pastro, The logic of message-passing, Science of Computer Programming Volume 74 (2009) 498-533)と呼ばれるメッセージを伝達する機能を持った「良い」並行プロセスを与えるシステムを与えることが分かった。これに関する論文は現在執筆中である。 以上に加えて、Akira Masuoka 氏(筑波大学)と共同で、超可換なホップ超代数の積分について研究を始めた。通常のホップ代数の積分はよく研究されているが、超代数の場合はほとんど知られていない。これについても良い進展が得られており、この論文も執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、補コモナドに関する理論の拡張を引き続き行った([R. Cockett and C. Pastro, Complementing comonads, In progress])。これにより、これらの補コモナドが、検証可能かつ良い動作を見せるような並行システムを記述するためのモデルを提供することを示した([R. Cockett and C. Pastro, Complement comonads and message passing, In progress])。後半の研究も現在進めているが、まだ完全ではなく、解決出来ていない疑問点も数点残っている。特に次のような問題が挙げられる:「どのような補コモナドの既知のバリエーションが、並行プロセスのモデルに対応しているか?」 次に増岡氏との共同研究に関しては、超可換なホップ超代数の積分に関する研究に引き続き取り組んでいる。積分に関する部分は、ホップ代数の様々な概念を超代数のそれへと拡張するための第一ステップとなる。積分に関してはホップ代数の場合には(その類似も含めて)よく研究されており、ほとんどの場合は非零積分が存在しないということが知られている。これに対し、我々は超代数の積分の場合において、このような積分が存在するという証拠を掴んだ。この事実は超代数とそうでない代数との間の大きな違いを見いだすことが出来る。この方向の研究により、ホップ超代数に関する実り多い理解が深まることが大いに期待される。ホップ超代数の圏は Harish-Chandra pairs の双対圏と同値であることが示されており、また代数的アファイン超群スキーム(algebraic affine supergroup schemes)であることを補足しておく。よって、この問題に対しては色々な観点から取り組むことが出来る。
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