今年度は、平成23年度に引き続き微分完全代数的独立性を有する整関数の研究を推進した。関数が微分完全代数的独立性を持つとは、その関数の零点を除く相異なる代数的数における値 及びそれら代数的数における逐次微分をすべて併せた無限集合が代数的独立となることである。微分完全代数的独立性を有する関数の実例はごく限られたものしか知られておらず、完全代数的独立性を持つ関数の実例と比べて先行研究の数も少ない。完全代数的独立性とは、零点以外の相異なる代数的数における値をすべて併せた無限集合が代数的独立となることである。本研究のもつ先行研究と異なる特色は、明示的な無限積表示を持ち微分完全代数的独立性を有する整関数を構成したことである。そのような整関数の零点はフィボナッチ数列やルカ数列といった2項回帰数列の、等比数列に対応する部分列をなす。2項回帰数列の特性根が乗法的独立であれば、該当する整関数の値は2変数のMahler関数の特殊値に帰着され、微分完全代数的独立性が証明される。一方、フィボナッチ数列やルカ数列のように特性根が乗法的従属な2項回帰数列の場合は、該当する整関数の値は1変数のMahler関数の特殊値となる。1変数Mahler関数は有理関数となる場合があり、完全代数的独立性を持たないことが明らかとなった。一方、このように1変数Mahler関数の特殊値に帰着できる場合について無限積表示される整関数の代数点における値が代数的従属となることを示す明示的な関係式を得ることは意義深い。平成24年度はこれを達成した。そのために用いた方法は相反多項式の根の分布についての精密な考察に基づくある種のアルゴリズムの構成である。 また、2変数のMahler関数であって変換を表す行列に負の成分が現れるものについて、単位円外の代数点における値の完全代数的独立性を証明した。この結果をまとめた論文は現在査読中である。
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