本年度はまず、古典的な2-descentやFisherらによる結果を基礎とする、一般の代数体上における楕円曲線のSelmer群の計算プログラムの実装に取り組んだ。計算代数システムMagmaの機能変更に伴う不具合の影響などもあり、完成したと言えるまでには至らなかったが、改善、改良を続けながら、部分的であるがデータの収集を行った。特に、代数体上の楕円曲線のMordell-Weil群のrankは、定義体と楕円曲線を自由に動かすとき、任意の非負整数値を取り得るであろう、という予想に対して、SAGEに組み込まれたCremonaによるmwrankなども併せて利用しながら幅広い計算を行い、多数の新しい例を得た。また、至る所で良還元を持つ代数体上の楕円曲線のMordell-Weil rankの偶奇性予想についても、関連する計算を行った。 楕円曲線の2進岩澤μ不変量の計算および2進岩澤主予想の検証については、前年度までに行った計算を引き続き実行しつつ、円単数の符号分布の観察など、理論的な側面からの考察を行った。さらに、Tate-Shafarevich群の単項化と可視性についての問題についても、Schoof-Washingtonによる結果を精査するとともに、Hilbert以降の単項化定理や栗原らによるイデアル類群の単項化に関する結果を検討し、類似の結果を楕円曲線のTate-Shafarevich群に対して与えるための多角的な考察を行った。
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