これまでの研究で得られた正則曲線とトロピカル曲線の間の対応を、代数幾何およびシンプレクティック幾何に応用することを考えた。まず、変形理論を用いてこれまでトーリック多様体に対して得られていた上記対応を、カラビ-ヤウ多様体の退化を含む一般的な状況まで適用できるように一般化した。これによって、K3曲面や、3次元カラビ-ヤウ超曲面上の任意種数の境界付きリーマン面の数え上げを、特異点付き整アファイン多様体上のトロピカル曲線の数え上げにより実行することが可能になった。特に応用として、一般の3次元カラビ-ヤウ超曲面上には2875本の有理曲線が存在することが知られているが、それを組み合わせ的に数え上げることができた。 一方、Mark Gross氏とBernd Siebert氏により、特異点付き整アファイン多様体から複素多様体を構成する方法が提唱され、そこにおいてはwallとよばれる区分アファインな対象が用いられる。このwallについて、上記の一般化を用いて、マスロフ指数0のLagrargian境界ディスクのモジュライ空間としての解釈を与えることができた。この手法は正則ディスクという代数的でない対象を代数的に扱うことを可能にするものであり、正則ディスクの研究に代数曲線に関する深い結果を適用することができるようになった。例えば、森重文氏による正準束が負の代数多様体に対する有理曲線の存在定理を用いて、上記のwallに現れるディスクが全て有理曲線と交わり、更にsmoothingを許すということを示すことができる。
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