平成25年度における当研究では、多様体の退化を通じた研究を継続し、主に次の2点に関して研究した。(1)既約なトーリック多様体への退化を許すファノ多様体上の正則曲線の、トロピカル曲線を用いた研究。(2)リーマン面上の因子の理論の、双対グラフを用いた研究。(1)の研究はB.Siebert氏と行った共同研究をはじめとするトーリック多様体上の正則曲線のトロピカル曲線を用いた研究、および香川大学の野原雄一氏および大阪大学の植田一石氏と行った共同研究における、旗多様体上の正則ディスクのトーリック退化を用いた研究の拡張で、旗多様体を含むファノ多様体について、トロピカル曲線を用いて正則曲線の数え上げを行うことを可能にした。これにより、これらの多様体上のグロモフ-ウィッテン不変量の一部についてはトロピカル曲線を用いて求めることが可能になった。また、議論の途中において、トーリック多様体の特異点を通る正則曲線とトロピカル曲線の関係をあたえ、それを応用した研究を現在進めている。(2)の研究はM.Baker氏、S.Norine氏らによるグラフ上のリーマン・ロッホの定理を深化させたものである、グラフに対するBrill-Noether理論(Cools-Draisma-Payne-Robeva)を発展させたもので、L.Caporaso氏が予想した、3価グラフ上のBrill-Noether条件を満たす因子についての主張を肯定的に証明した。現在この予想の逆にあたる主張も証明できており、論文を執筆している。これにより、古典的なBrill-Noether理論の主結果(Griffiths-Harrisの定理)が純組み合わせ的に証明できた。
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