研究概要 |
A∞圏から得られる三角圏について,その三角圏がA∞圏の情報をどれくらい保っているか?という問題について,少なくともいくらか情報の失われる三角圏の例が存在することが分かった.この情報の失われる三角圏の例に加え,あるクラスの三角圏においては情報が失われないことを本年度は論文にまとめた(投稿中).A∞圏から三角圏をとる操作は,ミラー対称性のホモロジー代数的定式化であるホモロジー的ミラー対称性において使われるものであり,ホモロジー的ミラー対称性は2つの三角圏の同値性として定式化される.しかし,三角圏をとると一般には情報が落ちるというこの結果は,ホモロジー的ミラー対称性を2つのA∞圏のレベルの同値性として定式化する方が精度が高いということを意味する.このことをはっきり確認したいというのがもともとの個の研究の動機のひとつであった. 一方,シンプレクティックトーラスと複素トーラスの間のホモロジー的ミラー対称性の拡張として複素トーラスを複素非可換トーラスに変形することが可能であり,そのミラー側の描像としてシンプレクティックトーラスにおける深谷A∞圏の拡張が得られる.この議論は,トーラスの場合Strominger-Yau-Zaslowによるトーラスファイバー束のミラー対称性の設定に拡張できる.これらのことについても本年度論文にまとめた(投稿中).トーラスの場合,複素トーラスのある非可換変形のミラー対は,変形されたシンプレクティック構造と葉層構造を持つトーラスとなる.トーラスファイバー束の場合にもこのようなミラー対が自然に拡張され,さらにそれらの上の圏を次数付き微分圏として構成した.2つの次数付き微分圏の間には標準的な同型があり,特にシンプレクティックトーラスファイバー束の変形上の次数付き微分圏は深谷圏とA∞同値であることが期待できる.これを実際に示すことは来年度の研究計画に関係する.
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