ホモロジー的ミラー対称性の定式化において,一般にA∞圏から三角圏を得る方法が提案された.このとき,A∞圏の情報がどのくらい三角圏に残っているか?という問題が考えられる.実際,様々な簡単なA∞圏の例において,それらの三角圏をとっても情報が失われないことが分かる.この問題について,三角圏をとると情報が失われるようなA∞圏の例を構成し,論文を投稿中であったが,本年度,一部主張のギャップを埋め,また証明をより詳しく書き直して再投稿し,受理された. ホモロジー的ミラー対称性予想は,シンプレクティック多様体上の深谷圏とそのミラー対称な複素多様体上の連接層の導来圏の同値性を主張するものであり,正確には深谷圏をA∞圏として構成し,それから得られる三角圏と連接層の導来圏(自動的に三角圏を成す)の三角圏としての同値として定式化される.よってこの予想を解決するために,この同値性が見える形で深谷圏のA∞構造を定めたい.これについて,過去に行ったシンプレクティック平面上の深谷圏のA∞構造の具体的構成の拡張として,現在シンプレクティック4次元平面上の深谷圏のA∞構造の具体的構成についての研究が進行中である.これは本研究テーマの中の最も主要なものの1つであるが,まだ実験段階であり,どのような形で定式化することになるかについては今のところ明確ではない. 本年度2月13日から15日には,千葉大学理学部1号館141号室においてミラー対称性に関する小研究会を開き,非常に有益な情報交換を行った.
|