研究概要 |
1.普遍タイヒミュラー曲線の境界:当初の目的は,普遍タイヒミュラー曲線Diff_+(S^1)/S^1の上の種々の距離構造を解析して普遍タイヒミュラー曲線の自然なコンパクト化および境界を得ることであった.しかし,研究を進めるうちに,S^1×S^1の閉部分集合のなす空間への普遍タイヒミュラー曲線の埋め込みのVietoris位相に関する閉包も考えるべきコンパクト化の候補であると考えるに至った.この埋め込みは円周の微分同相写像とそのグラフとの同一視により得られる.今年度の研究では,上記のコンパクト化への円周の微分同相群の作用の力学系的性質を考察し,双曲円板のコンパクト化への双曲円板の等長変換群の作用と比較した.例えば,回転数が無理数であるが無理数回転との共役写像として微分同相写像が取れない微分同相写像は上記のコンパクト化の境界に唯一の固定点を持つことが分かった.普遍タイヒミュラー曲線の上の種々の距離構造と上記のコンパクト化との関係を明らかにすることは来年度の課題である.2.非初等的な収束群作用を許容する群:収束群作用は球面への共形変換群の作用の力学系的性質を抽出した概念であり,双曲群のGromov境界への作用およびより一般に相対的双曲群のBowditch境界への作用などがその例である.非初等的な収束群作用を許容する群がねじれ元を持たなければ既約C*群環が単純であることがde la Harpeにより示されていた.既約C*群環の単純性は単位元のみからなる共役類以外の任意の共役類の無限性などの群論的性質を導く.また,相対的双曲群に対しては非自明な有限正規部分群の非存在と既約C*群環の単純性とが同値であることがArzhantseva-Minasyanにより示されていた.今年度の研究では,Arzhantseva-Minasyanの上記の結果を非初等的な収束群作用を許容する群に対して拡張した(尾國新一氏,山形紗恵子氏との共同研究).この結果に関する論文は現在執筆中である.
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