研究概要 |
本年度は偏極多様体上のbalanced計量を自己同型群が離散的ではない場合に拡張し,それを特徴づける汎関数を定義し性質を調べた. 漸近的なbalanced計量が存在し収束するとき,その極限はスカラー曲率一定なケーラー計量(以下,cscK計量)であることが分かる.逆にcscK計量が存在し自己同型群が離散的な場合に,DonaldsonはcscK計量に収束するbalanced計量が漸近的に存在することを示した.これは,cscK計量の存在が多様体の漸近的Chow安定性を導くことを意味しており,標準ケーラー計量と多様体の安定性の関係を示唆したYau-Tian-Donaldson予想の部分解である.一方,自己同型群が離散的でない場合には,この結果はCalabiの端的ケーラー計量と漸近的相対Chow安定性に拡張されることが満渕氏により示されている. 本年度は満渕氏の結果を力学系の観点から考察した.Donaldsonは与えられたケーラー計量からそのBergman計量をとることで,balanced計量に収束する力学系を定義した.この力学系はCalabiフローの離散的(かつ漸近的)近似とみなすことができる.ここでcscK計量がCalabiフローの固定点であるのに対して端的ケーラー計量がCalabiフローの自己相似解であることに着目すると,Donaldsonの力学系の自己相似解としてbalanced計量を拡張できることが期待出来る.この着眼点に基づいてbalanced計量を拡張し,それを臨界点とするような汎関数を定義した.これらは端的ケーラー計量の研究においてbalanced計量が有用であることを示唆する結果のひとつと言える.
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今後の研究の推進方策 |
以下の二つの点について注意しつつ研究を遂行していく.1.現在までに得られた多様体の安定性への理解をより深める.2.1.で得られた知見をケーラー計量の側面,つまり解析的な問題の理解へつなげていく.1.については,引き続き考えるべき課題はすでに明確になっているので今までの研究を継続していくことを考えている.2.については,有効な手法・考えるべき課題はまだ明確になっていないことが問題である.対策してChen-Donaldsonや満渕氏らによってYTD予想の解決に向けてプログラムが具体的に提示されるようになってきており,これらを参考にしながらしかるべき問題を模索していく.
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