本研究は、楕円型一階微分作用素であるラリタ・シュインガー作用素を様々な視点から考察し、ディラック作用素に対する幾何学・解析学のアナロジーを行うことを目的としている。さらに、スピン幾何学をどのように一般化するかの方向性を探るものである。 平成23年度の研究に引き続き、ディラック作用素に対するエータ関数に関して、楯辰哉氏、宮崎直哉氏と共同研究を行った。特に、3次元ハイゼンベルグ多様体および3次元レンズ空間上でディラック作用素の固有値から直接エータ関数を計算し、いくつかの特殊値を与えることに成功した。エータ関数を固有値から計算することは困難を要するが、幾何学や大域解析学では重要な課題の一つである。今回のように直接的な計算によるものは珍しく、エータ関数と多様体構造の関係を調べる上で貴重な成果である。これらの研究成果については現在論文執筆中である。 また、これまでの研究に引き続き、(a) 3次元多様体上のラリタ・シュインガー作用素と多様体構造の関係、(b) ケーラー多様体上での考察、(c) 高次のカシミール元との関係、(d) ユークリッド空間上での多項式解の構成、について研究を行った。若干の進展はあるものの目立った研究成果は得られていない。しかし、いくつかの方向性を見極めることができた。また、国外研究者らの研究により、ラリタ・シュインガー作用素に始まる高次スピンでのスピン幾何学は着実に進展している。本研究で行った考察に基づき、新しいスピン幾何学を構築することは幾何学・解析学において重要であり、今後もラリタ・シュインガー作用素の研究に取り組んでいく。
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