我々の先の研究で定義されたオープンブック分解の複雑度と、オープンブック分解の既に知られている不変量との比較を様々に行う中で、Alexander多項式(同じことであるが、Conway多項式)が持つ幾何的な側面が、幾何的に定義されている複雑度との関係を見出す上で有効に働くことが明らかになった。具体的には、オープンブック分解のファイバー曲面上の全てのアークとそのモノドロミー写像による像との成す代数的交点数の情報より、Alexander多項式の各係数を得る公式を構成した。さらに、この公式を利用して、逆にAlexander多項式の係数より、ファイバー曲面上の任意に与えられたアークとそのモノドロミー写像による像との代数的交点数を導き出す方法を得た。 我々のオープンブック分解の複雑度は、ファイバー曲面上のアークとそのモノドロミー写像による像との代数的交点数ではなく、幾何的交点数により定義されるものである。よって、代数的交点数より定まるAlexander多項式の情報では、複雑度の良い評価は得られない。しかし、上記のようなAlexander多項式の幾何的側面の有効性を保存したままAlexander多項式を拡張した不変量を構成することで、我々の複雑度のより精密な評価を得ることができるという見地を本研究を通して得た。さらに、このAlexander多項式の拡張には、以下のアプローチが有効であろうとの予測も得ている。すなわち、モノドロミー写像が属するファイバー曲面上の写像類群に着目し、その写像類群の表現として最も基本的なSiegel表現からAlexander多項式が得られることを参考にしながら、Siegel表現の先にあるJohnson-Morita表現からオープンブック分解の不変量を構成しようというものである。
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