今年度は、KPZ方程式やその離散化に関していくつかの性質を明らかにすることができた。まず、KPZ方程式において、wedge型初期条件を取った場合の空間2点相関に関して、長時間極限においてはAiry過程と呼ばれる過程で記述されることを強く示唆する結果を得た。KPZ方程式の揺らぎに関しては、その1点分布に関してはいくつかの初期条件・境界条件に対してその具体的な表式が得られるようになっているのに対して、2点相関に関しては理解が遅れていた。2013年にDotsenkoがレプリカ法を用いることにより、有限時間における有用な表式を得るのは困難だが長時間極限については調べることが出来る可能性を指摘して一つの表式を得たが、Airy過程と呼ばれる以前他のモデル系から得られていた長時間極限と同じであるかは不明なままであった。Spohn氏、今村氏との共同研究において、Dotsenkoの議論を整理し、長時間極限では確かにAiry過程が得られる事を示した。 また、KPZ方程式の離散化の一つであるq-boson ゼロレンジ過程と呼ばれる無限粒子系に関するPlancherel型公式を証明することができた。いったんこのような公式が得られると、固有関数の直交性や完全性は直ちに従うので、分布や相関といった量を計算する際大変有用である。取り扱う作用素が自己共役で無い点が非自明であったが、空間反転に関する対称性を用いることにより証明を与えることができた。
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