本研究では、応用を見据えた理論の構築を目的とし、反応拡散系近似理論の細部に踏み込んだ解析からその応用まで、多岐にわたった研究を行っている。具体的には、研究計画に記した研究(1)-研究(5)を柱として研究を進めてきた。 代表者の過去の研究において、一般的な交差拡散系の解を半線形反応拡散系の解により近似できることが分かっていた。ただし、その研究では1つの方程式を2つの偏微分方程式の相互作用により表現していた。数値解析への応用を考えた上では、これは有用であるとは言い難い。そこで本研究では、1つの方程式を偏微分方程式と常微分方程式の相互作用により表現できることを示した。このことにより、応用の可能性が格段に広がったと言える(研究(1))。実際に、この研究を応用し、非線形交差拡散系に対する汎用的、効率的、かつ、実装が容易な数値解法を提案した(研究(5))。 二官広和氏(明治大学)と共に、ある3成分反応拡散系について研究した。その急速反応極限がある交差拡散系により表現できることを示した。更に、その交差拡散系が3重結節点を含むある自由境界問題の弱形式になっていることも分かった。これは、反応拡散系の解が、弱形式ではあるが、3重結節点を含む自由境界問題の解に収束することが厳密に証明されたことを示している。この様な結果はこれまでになく、多重結節点を含む自由境界問題の解析の進展に繋がる可能性がある(研究(3))。 この他、D. Hilhorst氏(パリ南大学)やL. Desvillettes氏(ENS Cachan)等を訪問し、反応拡散系近似理論の進展(研究(2))や、その数値解析への応用(研究(4))等について議論を行うことで、今後の研究進展のための広い見識を得ることができた。
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