ヤング図形の集合の上に定義された対称群の確率測度であるプランシェレル測度に関して、ある対称関数が与えられたときの平均を具体的に計算するという問題に取り組む計画であった。これはユニタリ群や直交群の上の行列積分の計算から自然に発生した問題である。今年度は、直接的にこの問題に対して自身の進展は得られなかったが、密接に関連した類似の問題に大きな進展があった。すなわち、実Wishart行列というランダム行列モデルに対し、その逆行列の行列成分のモーメントを計算した。複素Wishart行列における同様の問題は、Graczykら(2003)により解かれているが、「実」の場合はこれまで未解決であった。解決にあたって、直交群の行列積分に用いた「直交Weingarten関数」と同じ物を、実Wishart逆行列にも用いることができた。したがって、我々が当初に考えていたプランシェレル測度の問題は、Wishart行列についてもさまざまな情報を与えてくれるようになった。すなわち「プランシェレル平均」「Jucys-Murphy元」「ユニタリ群や直交群の行列積分」という3つの話題に、新たに「Wishart行列」の話題を関連づけたことが22年度の主な成果である。
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