ヤング図形の上に定義されるプランシェレル測度とランダム行列の関連について研究していくことが現在の研究テーマである。本年度の主な成果は、COEと呼ばれるランダム行列のクラスに対し、その行列成分のモーメントを計算する手法を確立したことである。これらはプランシェレル測度の類似物と密接に関連している。 同じサイズのユニタリ行列で、対称なもの全体のなす空間にはユニタリ群が作用する。この作用で不変な確率測度が一意的に存在し、それにより定義されるランダム行列の空間を円直交アンサンブル(COE)と呼ぶ。これはDysonにより定義されたランダム行列モデルの一つであり、数理物理でもその重要性から多く研究されている。しかし、これまではCOE行列の固有値に関する研究が主であり、行列成分の分布については、行列のサイズが無限大になるときの振舞いは調べられていたものの、有限サイズでは確立した結果が得られ:(いなかった。本年度の研究では、昨年度までに研究したWeingarten calculusという手法を適用することで、行列成分モーメントを対称群上の和として書き表す手法を構築した。 COE行列成分のモーメントは、直交Weingarten関数と呼ばれる対称群上の関数の和で与えられた。これは超八面体群の両側作用で不変な性質をもち、Jucys-Murphy元やプランシェレル測度のジャック類似などとの深い関係があることは、昨年度までの研究の通りである。
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