本研究ではグラフ上の非衝突ランダムウォーク系を扱い、最終的な研究目的は非衝突ランダムウォーク系の統計解析の基礎となる分配関数に対して、その閉形式表示(積表示)が実際に計算できるグラフを、離散力学系の一種である離散可積分系と対応付けて系統的に構成することである。この研究目的を達成するために、昨年度の直交関数に関する研究.を土台にして、直交関数に付随する離散可積分系(離散ハングリー戸田方程式、離散ハングリー・ロトカ・ボルテラ方程式、離散相対論戸田方程式、RI chain、RI chain)に対する重み付きグラフ上の径路を用いた組合せ論的な解析を行った。特に各離散可積分系に対して重み付きグラフを導入し、グラフ上の非衝突ランダムウォーク系の分配関数の閉形式表示の計算法を、離散可積分系の行列式解や直交関数の行列式表示等を用いて定式化した。さらに本研究の成果の応用として三角格子上の非交叉歩道の数え上げ問題を取り上げ、ローラン双直交多項式および離散戸田方程式を用いてその厳密解の具体形を求めた。具体的には非交叉歩道と行列式に関するGessel-Viennot-Lmdstromの補題により、非交叉歩道の数え上げ問題をNarayana多項式という組合せ論的多項式を成分とするハンケル行列式の計算問題に帰着させた。さらにそのハンケル行列式の値を、ローラン双直交多項式の行列式表示および離散戸田方程式の双線形形式を用いて具体的に計算した。三角格子上の非交叉歩道の数え上げ問題は、六頂点模型の統計力学等と関連深いアステカ・ダイアモンドのドミノ・タイリング問題と対応付けることができる。本研究の成果はアステカ・ダイアモンドに対して新たなクラスのドミノ・タイリング問題を厳密解込みで提示するものである。
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