真正粘菌変形体は単細胞生物であり、脳のような高次機能を持たないにもかかわらず、餌のある場所に集まり、忌避物質に接した際にはその場所から離れるといった適応的な振る舞いを示すことが知られている。しかしながら、そのような環境適応性に対する数理的な理解に至っていないのが現状である。本研究の目的は、収縮弛緩運動と伸展運動によって発生する遷移ダイナミクスの数理的機構を解明するために解析手法を開発し、真正粘菌にみられる遷移ダイナミクスの発生機構を明らかにすることによって、環境適応的な振る舞いを可能にする数理的機構を明らかにすることである。本年度は真正粘菌の移動運動およびパターンダイナミクスに関する数理解析を行った。収縮弛緩運動とゾルを相互作用させた数理モデルの作成、および数値シミュレーションを行い、生物実験結果との比較を行った。移動運動の再現においては細胞先端部で起きる化学反応を考慮に入れることによって忌避物質に接した時に示す遷移ダイナミクスを定性的に再現することに成功した。この結果から、細胞先端部における化学反応の活性化が移動運動において重要であることを示すことができた。さらに、その数理モデルを改良することによって定在波、およびスパイラルパターンを再現する数理モデルの構築を試みた。定在波の再現において収縮弛緩運動にかかわる化学反応が有する非線形性が重要であることが数値シミュレーションによって明らかになった。
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