本研究において、研究代表者は、同期現象を記述するための代表的なモデルである蔵本モデルの解の振舞いを調べた。蔵本モデルは無限次元の力学系であり、方程式の線形部分を定義する線形作用素が連続スペクトルを持つようなものである。この連続スペクトルのために、蔵本モデルの解の分岐構造を解明することは長らく困難であったが、研究代表者はリグド-ヒルベルト空間における線形作用素のスペクトル理論を確立し、これを応用して解の安定性に関する問題を解決した。すなわち、通常のヒルベルト空間ではスペクトル分解不可能な線形作用素が、リグド-ヒルベルト空間と呼ばれる空間の上ではスペクトル分解可能であることを示した。代表者はスペクトルの概念をリグド-ヒルベルト空間へと一般化し、この一般化スペクトルが解の振舞いを決定することを証明した。さらに、リグド-ヒルベルト空間においては、有限次元の中心多様体が存在して力学系をその上に縮約できることを示し、これを応用して解の分岐に関する問題も解決した。これにより、本年度の目標であった、蔵本モデルの分岐図に関する蔵本予想を完全に解決した。これに関する論文は現在投稿中である。蔵本モデルは、自然界で数多く観察される同期現象を説明するための最も代表的なモデルであり、物理や工学において頻繁に応用されている。したがって、蔵本モデルの解の構造を解明したことは、数学のみならずその周辺分野にも大きなインパクトを与えると思われる。
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