本研究において、研究代表者は、結合振動子系と呼ばれるクラスの無限次元力学系の、解の安定性と分岐の理論を確立した。特に、応用上最も重要な結合振動子系である蔵本モデルについて、その解の分岐構造を決定することに成功した。 結合振動子系に代表されるあるクラスの方程式は、方程式の線形部分を定義している線形作用素が連続スペクトルを持つため、その解の安定性や分岐を調べることは、従来の方法では困難であった。そこで研究代表者は、ゲルファンドの3つ組を用いた超関数空間における線形作用素のスペクトル理論の一般論を確立し、この困難を解決することに成功した。すなわち、通常のヒルベルト空間では連続スペクトルを持つために解析困難な線形作用素が、ゲルファンドの3つ組を用いると連続スペクトルが消失して容易に解析可能になることを示した。 この結果が評価され、台湾やスペインでの国際会議で発表したほか、2013年3月の日本数学会(京都大学)では特別講演を行った。 蔵本モデルは、自然界で数多く観察される同期現象を説明するための最も代表的なモデルであり、物理や工学において頻繁に応用されている。したがって、蔵本モデルの解の分岐理論を確立したことは、数学のみならずその周辺分野にも大きなインパクトを与えると思われる。
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