平成22年度の研究成果は、単一のFIFOマルチプレクサにおいて、注目フローの滞留量の補分布の裾の減衰率を求めた。アイデアは既存研究において優先処理モデルでは出てこなかった演算minと極限対数累積母関数の交換可能性についてである。これによってFIFOモデルであってもこれまでと同じ方法論が適用できることがわかった。また得られた評価式と、token bucketからの入力の累積母関数の上界を組み合わせることで、確率ネットワーク算法の結果は決定論的ネットワーク算法から得られる結果を導くこともわかった。 本研究の対象は通信ネットワークであるが、本研究の重要性を理解していただくために東日本震災の言葉で説明しよう。注目フローの滞留量は押し寄せる津波の高さであり、ネットワーク設計者は堤防の高さ(バッファ容量)を決めなければならない。今回の津波の高さを考慮すると40mぐらいが最悪値だとわかる。しかし税金などの関係で40mの堤防は非現実的である。例えば30mの堤防だと何年に一回の大災害まで防げるのだろうか。何年に一回という量は確率で記述され、本研究がしていることはこの確率の簡単な計算方法の確立である。ネットワーク分野の言葉で言うと、統計的多重効果を考慮したバッファ容量を計算できるようになった(正確には裾の減衰率が計算できるのだが)。
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