研究課題/領域番号 |
22740070
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
高田 寛之 長崎大学, 大学院・工学研究科, 助教 (10297616)
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キーワード | 確率ネットワーク算法 / 大偏差理論 / 実効帯域 / トークンバケット / キュムラント母関数 / Bahadur-Rao定理 |
研究概要 |
本研究は、通信品質保証ネットワークの設計のために、性能指標(待ち行列長、遅延)に対する裾確率の上界評価をするための代数計算法則を確立するものである。アプローチはmany flow漸近による大偏差定理の適用とKellyの実効帯域と決定的ネットワーク算法の組み合わせである。当該年度以前の研究では、裾確率の減衰率の上界を与えた。 当該年度の研究では、裾確率の非指数項も考慮して精度を上げるということをしたときに、これまで構築した代数計算法則に改良が必要であるかということに着目して研究した。そのために、Kellyの実効帯域を見なおし、それが二つの要因によって構成されていることを確認した。一つめの要因は、入力過程が時間に関する区分的線型な関数で押さえられていることから、テイラー展開を用いて、その一部の項にだけその上界を適用しているということ、二つ目の要因は、入力過程の平均の上界が与えられているということであった。なお、入力過程の分散については何も制約を与えていない。一方、独立なフローの重ねあわせの特徴から入力過程に対してBahadur-Rao定理を適用すること考えた。待ち行列長はこれらの入力の関数であるので、確率論でよく使用される不等式を利用して、上界を求めた。しかしながら、Bahadur-Rao定理の主張では、キュムラント母関数の二階微分の項が必要である。このことは、入力過程に対する情報として、Kellyの実効帯域だけでは不十分であるということを示している。また二階微分は分散に関係していると考えられるので、例えば、分散が既知ならば評価は可能であるかについて考えたところ、丁度そのキュムラント母関数の二階微分は一般的に母関数パラメータが正の範囲で、その分散が下界になることがわかった。 このように研究成果は、これまでの設定では、精密化に耐えられないということを明らかにしている。当該研究の重要性は、裾の減衰率のレベルでは呼の受け入れ判定が実現できるが、精度を上げた受け入れ判定では、現状のトークンバケットを改良しなければならないことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた裾確率の減衰率の上界の計算法則は完成している。しかし、係数部も含めた裾確率の上界評価については、上記の成果から、トークンバケットフィルタそのものの見なおしが必要であると考えている。また、予定していた漸近打ち切りの影響による誤差の判定に手をつけられていない。また、論文として、審査性のある雑誌に公開されていない。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、これまでの成果を審査性のある雑誌に公表する。本題に関しては、まずはフラクショナルブラウン運動を入力過程として考慮したいと思う。この過程は二次積率までの項で記述され、キュムラント母関数も陽に計算できるためである。このように問題の範囲を限定して、分散が既知である場合についての結果を調べていく。そこから二次積率までの項が既知である入力過程への一般化を行う。一方で、トークンバケットを通る独立なフローの重ねあわせの過程についての調査を、Ward Whitt, Stochastic Process Limits, Springer 8章の観点から行う。
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