研究概要 |
本研究では,HIV-1(human immunodeficiency virus type 1)感染症患者から長期的に得られたenv遺伝子V3領域の塩基配列と情報通信における様々な人工的な符号との近さを測り,その塩基配列が感染症過程をとおしてどのような符号構造を有するのかを理解することを目的としている. 22年度においては,本研究課題を効果的かつ効率的に遂行するためのHIV-lenv遺伝子のデータベースを構築した.長期にわたり追跡調査されたHIV-1感染症患者を対象とし,患者の免疫状態を判断するマーカのCD4陽性T細胞数やウイルスの増殖の程度を判断するHIV-1RNA量,サブタイプ,病期の進行段階,薬剤投与等の文献情報も含め,独自に利用しやすいものに整えた. さらに,HIV-lenv遺伝子のV3領域の符号がどのような構造をもっているのかを通信工学における符号理論を用いて調べるために,HIV-lenv遺伝子V3領域の解析に適合した符号の適用の仕方をいろいろと工夫し,V3領域の符号構造解析を統一的に扱えるアルゴリズムを作成した. 本研究は,HIV-1のV3領域の塩基配列と様々な情報通信における人工的な符号との類似を調べ,その塩基配列の符号が持っている構造,性質を明らかにして,HIV-1の全体像を理解しようとするものである.このように,対象とするデータを情報論的に解析して生命の全体像を理解する研究は少ないが,情報のやりとりと深く関わっている生命現象を理解するために,本研究は重要な研究の一つであると考えている.
|