研究概要 |
本研究では,HIV-1(human immunodeficiency virus type 1)感染症患者から長期的に得られたenv遺伝子V3領域の塩基配列と情報通信における様々な人工的な符号との近さを測り,その塩基配列が感染症過程をとおしてどのような符号構造を有するのかを理解することを目的としている. 23年度においては,集めたHIV-IV3領域の塩基配列を様々な符号化法によって加工し,人工的な符号を作り上げた.その後,V3領域がどの符号に近い構造をもつのかを調べるための指標が必要になるので,情報理論やカオス理論において作り出されたいくつかの情報尺度を本研究目的に添うよう作り替えて取り入れた.これにより,HIV-1のV3領域が感染症過程をとおしてどのような符号構造を有するのか,また,どのような符号構造をもったV3領域が病期の進行に関わっているのかが見えてきた.現在は,符号構造という観点から,HIV-1の進化を捉えたり,分類を行ったりしている. 本研究は,HIV-1のV3領域の塩基配列と様々な情報通信における人工的な符号との類似を調べ,その塩基配列の符号が持っている構造,性質を明らかにして,HIV-1の全体像を理解しようとするものである.このように,対象とするデータを情報論的に解析して生命の全体像を理解する研究は少ないが,情報のやりとりと深く関わっている生命現象を理解するために,本研究は重要な研究の一つであると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
登録されているHIV-1感染症患者のデータはサブタイプBによるものがほとんどである.しかしながら,現在ではB以外の感染症患者の方がはるかに多く,南アフリカやインドで蔓延しているサブタイプCは全世界のHIV-1感染症患者の50%を占めている.また,異なったサブタイプでは,HIV-1の標的細胞への侵入に深く関わるV3領域の形態が異なることが報告がされている.このことから,HIV-1V3領域の様々なサブタイプでの生物学的特性の違いを整理し,サブタイプごとにHIV-1の変異をより理論的に捉え,HIV-1の全体像を理解することの必要性が強く求められる. 研究を遂行する上で,必要なデータが得られないことは非常に妨げとなっているが,サブタイプB以外の患者の追跡調査を行なった研究も近年増えてはいるので,できるだけ多くのタイプのHIV-1感染症患者を扱えるよう,文献,HIV-1データベース等によるデータ収集に努めることで解決したい.
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