本研究では、HIV-1(human immunodeficiency virus type 1)感染症患者から長期的に得られたenv遺伝子V3領域の塩基配列と情報通信 における様々な人工的な符号との近さを測り、その塩基配列が感染症過程をとおしてどのような符号構造を有するのかを理解することを目的としている。 HIV感染症患者の病期経過には著しい個人差があり、感染から数年で死に至る場合もあれば10年以上経ってもAIDSを発症しない場合もある。HIV-1V3領域の塩基配列と、その塩基配列を様々な符号化法によって加工し、作り上げた人工的な符号との類似を調べたところ、感染初期に得られたV3領域の符号構造が、患者の病期の進行速度の違いによって異なることがわかった。つまり、病期の進行の速い患者、遅い患者、非進行患者、それぞれの患者群のV3領域を特徴付ける符号を見つけることができた。また、病期が進行する患者においても、AIDS発症前後で、その患者内のV3領域の符号構造が異なることがわかった。したがって、HIV-1感染初期におけるV3 領域の符号構造の違いによって、またはHIV-1感染症過程における患者の有する符号構造から、病期進行を予測することが可能であること、この符号構造という観点から、HIV-1の進化を捉えたり、分類したりすることが可能であることを示せた。
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