研究概要 |
ある地点における1時間毎の風向を記録したデータや、渡り鳥の移動方向を一定時間おきに記録したデータは、個々の観測が円周上の点として表されることから、円周上に値をとる時系列データとみなすことができる。本研究では、3年間に渡り、Kato(2009)による円周上のマルコフ過程の拡張として、誤差項に非対称分布を仮定した円周上の自己回帰過程を提案し、その統計的性質の考察と気象データへの応用を行う。1年目にあたる平成22年度には、誤差項に対称分布を仮定した円周上の自己回帰過程の構築を行った。自己回帰過程の構築においては、Fisher and Lee(1994)によるリンク関数を用いた円周上の自己回帰過程の導出法を利用し、リンク関数に正接関数を仮定することで自己回帰過程を導出した。また誤差分布としては、本年度の段階では対称分布であるWrapped Cauchy分布を仮定した。この自己回帰過程はKato(2009)によるマルコフ過程の1つの拡張となっている。つまり、Kato(2009)のモデルでは、過去の状態を所与としたときの時間t+1の状態W_<t+1>の条件付き分布が、時間tの状態W_tにのみ依存するモデルであったのが、今回のモデルではより一般に、W_t,W_<t-1>.....W_<t-p>に依存する拡張モデルとなっている。この自己回帰過程は、時間tにおける分布がWrapped Cauchy分布になるなどの解析的に扱いやすい幾つかの性質が成り立つことを示すことができた。また、自己回帰過程の挙動についても考察を行い、パラメータの解釈についても議論を行った。その結果、本研究で提案されたモデルを応用することにより、既存のモデルは記述できなかった時系列における現象を記述することが可能となることがわかった。
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