未知構造解析においては、単結晶・粉末結晶どちらの場合も、位相問題と呼ばれる問題を解くことが必要となるが、必ずしも解の一意性が成立するとは限らない。現存するアルゴリズムでは単純なしらみつぶしを除いて、全ての解を得ることができないので、全ての解を効率よく得られるアルゴリズムを開発することが本研究の目的である。特に、sum of squaresを用いた全ての解を列挙する大域的最低化手法が近年提案されているので、本年度は、この方法を適用するために、特に計算時間の観点から以下のような改善を行った。まず、同一原子の置換により発生する対称性・回折像の持つ対称性などの対称性の持つ群作用の表現から、緩和によって得られる半正定値計画問題のサイズを小さくする手法の調査およびプログラム開発を行った。また、結晶構造の持つ対称性を示す空間群は、強度抽出が終わった段階で分かっていないため、多項式計画問題の持つ対称性から、空間群および原子位置のセッティングに関して候補を絞る手法を開発した。本手法では、消滅則を用いた既存手法よりも多くの情報を回折データから取得して利用することができる。求められた空間群を用いて、半正定値計画問題のサイズを小さくすることができる。 さらに本年度は、粉末未知構造解析の前処理である、粉末指数づけ、強度抽出アルゴリズムおよびプログラムの改善を行った。特に粉末指数づけにおいては、結晶学上の有用性が高く、2次形式論の比較的高度な内容が応用として使用される。結果とソフトウェアの宣伝および情報収集のために、これらの結果を結晶学および数学の国際会議等で発表した。また粉末指数づけアルゴリズムについては特許出願を行った。さらに強度抽出のプログラムのために行った、コレスキー行列分解と不等式制約条件の処理に関わるアルゴリズム上の改善について、結晶学の学術論文誌に投稿した。
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