研究概要 |
平成23年度は,本課題の主目的である「一般確率論を土台とする量子力学の原理探求」に集中し,量子ビット系の原理的導出(現在2本論文投稿中)に成功し,さらに合成系のテンソル積による表現の理論整備,並びに超立方体系の合成系の相関に関する研究を行った.量子ビット系の導出は「純粋状態の物理的等価性」と「識別可能な状態による分解可能性」という独自の物理原理を提案し,低次元系における量子力学と古典確率論の演繹に成功した.これは,本分野において高く評価され,国際会議を含む複数の招待講演を依頼され講演を行った.一般の量子力学系の導出には,さらなる原理が必要となることがわかっており,現在複数の物理原理(情報取得に関する相関の上限など)を模索し検討している。合成系のテンソル積表現は,これまでに数学的に厳密で物理原理に立脚した表現がなかったため,相関に基づく双線形確率汎関数に基づき,状態空間のテンソル積表現の定式化を行った.これにより,本研究課題の相関の厳密で一般的な議論を行う土台が整った.現在は,一般確率論の最もシンプルで非自明な超立方体の合成系を考え,相関の一般的性質(特に,量子系のエンタングルメントに相当する相関)を調べている. また,本研究課題の量子情報理論への応用に関しては,古典遅延情報(相関)を利用するMean King問題に着目し,(i)誤り訂正符号の関係,(ii)Kingが射影測定ではなく,POVM測定を行った場合の成功確率の評価(いずれも論文投稿準備中)を行った他,純粋度などの量子状態汎関数の測定法の提案(論文投稿準備中)などを行った,
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度は新しい職場への異動があり,その影響もあり本研究の進展にやや遅れがあった。特に,投稿中の論文のレフェリーとのやり取りや投稿準備中の論文に遅れが生じたため,このような評価とする.しかし,本研究課題に対しては,量子ビット系の導出など重要な成果を出し,複数の招待講演を依頼されるなど評価されている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,一般確率論と量子情報理論の二本立てで,内と外から相関の性質や量子力学の原理的導出に向けて研究を進める予定である,特に,量子力学の原理に関しては,具体的な原理に着目し,そこから得られる一般確率モデルの性質を調べることで,各理論の位置づけを明確にすることに焦点を絞る.これは,本研究課題の最終目的である「量子力学の原理的導出」を行うための避けられない(地道な)準備である. また,現在得られている複数:の成果(研究実績の概要参照)の論文作成を早急に行いたい.
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