研究課題/領域番号 |
22740079
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
木村 元 芝浦工業大学, システム工学部, 助教 (80517011)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 一般確率論 / 量子力学の物理原理 / 相関 / 量子情報理論 |
研究概要 |
本年は,一般確率論上の相関の考察を中心に行い,合成系上のテンソル積構造の導出を目指して研究を進めた。特に,量子相関の限界を導出したパヴォフスキらの情報因果律に着目し,情報因果律が成立する一般確率論の分類を行ってきた。情報因果律の原理は,量子情報科学の問題の一つであるMean King問題にも応用することができ,POVM測定のみを許す設定における解の導出に成功した。ただし,測定のランダム性と情報因果律におけるビット列のランダム性の置き換えが可能かどうか考察を進める必要がある。また,量子力学の情報的導出に成功したダリアーノらの研究で用いられた純粋化の原理と組み合わせることで,量子力学の原理的導出が可能かどうかを吟味した。この研究は現在進行中で,次年度には決着をつけたい課題である。また,量子情報科学との関連では,純粋度の測定に着目し,最小限の実験設定における測定可能性を検討した。興味深いことに,結果は量子系の次元の偶奇性に依存し,無限次元を含む任意の奇数次元では可能であるが,量子ビット系を含む偶数次元の場合は,不可能であるNO-GO定理を証明した。現在は,純粋度のみならず,密度演算子のスペクトル測定に着目し,最小情報取得に基づくスペクトル測定の提案を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度最も力を入れたかった研究である量子力学の原理的導出に関して,情報因果律と純粋化の原理の組合せで,さしたる成果が出なかったためにこのような評価とする。ただし,情報因果律の応用として,POVM測定への制限下のMean King問題における最適成功確率の導出を行った点は評価できると考えている。また,上の研究により,一般確率論上の相関の構造が大分分かってきたために,今年度の研究につなげたい期待している。量子情報理論との関連では,純粋度の測定可能性に着目した研究では,従来その物理的意味が明確でなかった量子系の次元の個性が測定可能性に依存することになったので,次元の操作的な理解に繋がる重要な結果であると考えている。量子力学の原理的導出は,一般論のみの議論では難しいため,一般確率論上の四角形モデルなどの具体例を積み上げていく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である本年度は,量子力学の原理的導出に一つの決着を付けたい。昨年度より注目している情報因果律及び純粋化の原理は,これらを満たすモデルを積み上げる地道な研究を重ね,一般確率の分類,及び,他の原理と組み合わせることにより,量子力学の導出を目指したい。この指針の下で,上記の原理の下で純粋状態の持つ相関の分類を行いたい。例えば,古典物理学では,純粋状態は相関を持ちえず,量子力学では,量子もつれを利用することで,完全相関を持つ純粋状態が可能となる。これは,直接一般確率論上の無条件安全な鍵配送につながるため,一般的な情報理論の構築の研究とも繋がると考えている。また,純粋度や密度演算子のスペクトルの測定可能性の研究を進める。
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