今年度は昨年度に引き続き、1次元非線型ディラック方程式の散乱問題を研究した。対象とした非線型項は冪乗型である。この場合、自由ディラック方程式の解(自由解)に対する減衰評価に基づき、漸近挙動に関する臨界指数は3であると推測できる。特に、指数が3より大きいときは、非線型方程式の解は時刻無限大において適当な自由解へ漸近することが予測される。更に強い結果として、散乱作用素Sが適当な重み付ソボレフ空間の原点近傍で定義できることが期待される。これらの予想を解決することは、本研究に於いて重要な課題と言える。 昨年度は(1)指数が19/6より大きいとき、或る重み付ソボレフ空間の0近傍上で散乱作用素が定義できる。(鍵となる道具:ストリッカーツ評価、ベゾフ空間、埋蔵定理、重み付ソボレフ空間と相性の良い作用素JとP)(2)指数が3より大きく19/6以下であるとき、適当な重み付ソボレフ空間の0近傍上で波動作用素W並びに逆波動作用素Vが定義できる。(鍵となる道具:Pの自乗に関する不等式) という結果が得られているが、今年度は(2)を拡張した結果を得ることが出来た: (結果)指数が3より大きく19/6以下であるとき、入射データを十分小さくすることで、Wの値域はVの定義域に含まれる。(鍵となる道具:Pの自乗に関する不等式)これからWとVの合成写像が定義されるが、これは散乱作用素と同じ構造を持つ。 以上の結果を簡潔に述べると、「指数が3より大きいときは、散乱作用素またはそれと同じ構造を持つ作用素が定義できる」となる。従って、上で記した予想の一部が解決されたことになる。なお得られた結果は、論文に纏め、査読付学術雑誌に投稿中である。
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