研究概要 |
流体の運動方程式であるナヴィエ・ストークス方程式の数値計算をする際には,数値的安定性を担保する為にテマムにより導入された「処罰法」と呼ばれる方法が用いられる。ここでいう処罰法とは,流体の非圧縮条件を流速と圧力について閉じた式に書き直すものである。そこに現れるパラメータをゼロに近づければ,形式的にはナヴィエ・ストークス方程式に一致するため,微小パラメータを伴う処罰法により計算した解はナヴィエ・ストークス方程式の近似解と見ることが出来る。 処罰法の数学的な正当化については,定常問題についてはテマム(1968),非定常問題についてはシェン(1995)の結果が知られていたが,いずれも有界領域で,解のクラスとしてはエネルギーが有界なものであった。非有界領域において,また別の解のクラスにおいて処罰法に数学的な正当化を与える事は流れのシミュレーションにおいて重要な意味を持つし,またナヴィエ・ストークス方程式の解析をこれまでとは異なる方法で行うことの出来る可能性を含む。 本年度に得た研究成果の一つは処罰法に対するこれまでとは異なる立場からの数学的正当化である。出発点として,本年度は全空間における初期値問題を考えた。全空間ではソレノイダル場へのヘルムホルツ射影と微分作用素が可換となることから,処罰法により得られる近似方程式は速度場のソレノイダル部分に対する発展方程式と,スカラーポテンシャル部分に対する発展方程式との連立方程式へ還元される。得られた発展方程式系に対しては,加藤(1984)の方法で軟解を構成した。鍵となるのは拡散係数付き熱方程式の基本解の評価である。パラメータに関する一様評価に基づき,処罰法の数学的正当化が示された。 得られた研究成果は二つの国際会議において報告した。そこでのディスカッションなどで,幾つかの課題や今後の問題が見つかった。これについては,H24年度に改めて考察を行う。 また,H22年度に継続してMHD方程式についての考察も行ったが,紙数の都合で割愛する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・MHD方程式については,ある程度まとまった研究成果が得られている。H24年度には学術論文として投稿をする事が概ね可能である。 ・処罰法の正当化についても,ある程度まとまって研究成果が得られている。本年度行ったディスカッションなどに基づき結果を改良し,H24年度中の学術論文の投稿を目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
H23年度に得た処罰法に関連する研究を更に進める事が一つの目標である。非線形問題の場合の圧力項に対する評価を得ること,また初期値を適当なソボレフ空間から選んだ場合に初期層についての評価が得られるかどうか,また初期値・境界値問題の場合に全空間と類似の結果が得られるかどうかを検討する。特に粘着条件の場合には,微分とヘルムホルツ射影は可換でない事が問題を難しくさせる。弱ノイマン問題からヘルムホルツ分解を導く方法などに注目し,境界条件を伴う場合についての考察を行いたい。 H24年度は本研究の最終年度に当たるため,MHD方程式やスリップ条件下でのナヴィエ・ストークス方程式,処罰法の正当化などに関する研究成果を幾つかの論文を学術誌へ投稿する予定である。 また,本研究と関連し,幾つかの研究集会を開催し,近接分野との研究者とのディスカッションを行う予定である。
|