本年度は、安定型白色雑音をもつ確率偏微分方程式の解の構成のために必要となるバナッハ空間値の独立確率変数の和についての収束の条件についての研究を行った。安定型雑音自身は対称な確率変数であるが、熱核が作用する結果対称性は失われるので、これは伊藤-西尾の一般論では議論できない。前年度までの研究において、低い可積分性の下での末尾確率の制御が残されていたが、これをかなり一般の状況下で解決でき、解が連続になることと安定指数が独立であることなどの研究成果が得られた。これによって対象の確率偏微分方程式の解の時間方向及び空間方向の正則性の問題についてかなり見通しよく議論できるようになり、それをもとにして現在まで得られていた成果を精密化する作業を開始することができるようになった。 一方でもう一つの課題であった確率輸送方程式の逆問題については、加法型・乗法型の両方の方程式と、時間白色・空間白色のガウス型雑音の組み合わせによって4通りの方程式を考えていたが、特に時間方向への乗法型雑音を持つ場合、長い間の懸案であった2次変分過程を用いた係数推定が可能となった。ランダムな観測から決定論的な係数を回復するためには、典型的には大数の法則型の議論と2次変分型の議論とがあり、従来は大数の法則型の議論しかできていなかった。なお加法型雑音の場合には、観測値の2次変分過程はもとの方程式の係数の情報を含んでいないことは以前から示していたところであったので、これによって確率解析学的観点から満足いく議論ができるようになった。
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