研究課題/領域番号 |
22740087
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
佐々木 格 信州大学, ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点, 助教 (50558161)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | スペクトル / 基底状態 / 束縛条件 / 相対論的シュレディンガー作用素 / 量子電磁力学 / 非可換調和振動子 |
研究概要 |
本年度は準相対論的Pauli-Fierzモデルの基底状態エネルギーの性質と非可換調和振動子のスペクトルを研究した。 (1)N個の荷電粒子が量子電磁場と相互作用する系の基底状態エネルギーを研究し,この系において少なくとも一つの粒子が,固定された核子によるポテンシャルに束縛されることを証明した.ただし,粒子はスピンを持たず,Bose統計またはBoltzmann統計に従うことを仮定している.核子のポテンシャルは負と仮定した.ここで使用した手法は,九州大学の廣島文生氏によって導かれた汎関数積分表示と正値性保存および,そこから導かれる運動エネルギーの凸性である. (2)粒子がスピンを持たない場合の準相対論的Pauli-FierzモデルのPolaronを研究した。基底状態のエネルギーをE(P),光子の仮想的な分散関係をw(k)=|k|+mとするとき,不等式 E(P-k)-E(P)+w(k)≧m がすべてのPに対して成り立つことを証明した。これは,この系の基底状態エネルギーと真性スペクトルとの間には m>0 のギャップが開いていることを意味する。特に,基底状態が存在する。 (3)非可換調和振動子のスペクトルを研究し,ハミルトニアンが正で楕円型になるようなすべてのパラメーターに対して,基底状態は一意的であることを証明した.また,ハミルトニアンがJacobi行列の4つの直和に分解されることを示した.この事実を用いて,特定の固有値はパラメーター変動で交差しないことを示した。さらに,ハミルトニアンの固有値を厳密に計算する手法を与えた。 なお,上記の(3)は九州大学の廣島文生氏との共同研究である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粒子のスピンや統計に対して条件がついてはいるが,準相対論的Pauli-FierzモデルのN体の束縛条件の一つを示すことが出来た。また非可換調和振動子の基底状態の一意性の問題を完全に解決することが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
光子が質量を持つ場合に,準相対論的Pauli-FierzモデルのPolaronに対してスペクトルギャップが開くことの証明が出来たので,光子の質量が0の系の基底状態の存在を示すことが次の課題である。質量有限の基底状態に対してPull-through公式から光子の量を評価すればよいのだが,ハミルトニアンがnon-localなので必要な評価が得られない。この点を克服するための一つの方法は,E. H. Liebらによって証明された相対論版のStability of Matterで開発された手法でこのモデルに応用可能なものがないかどうかを調べることである。
|