本研究は,フェルミオンとボソンの相互作用系の一つである,準相対論的Pauli-Fierzモデルのスペクトルを解析することを目的としている。このモデルは,相対論的シュレディンガー作用素で記述される荷電粒子と量子電磁場との相互作用を記述する量子系である。前年度までの研究で,荷電粒子が1粒子である場合には,束縛条件と呼ばれる不等式が成り立ち,さらに荷電粒子が複数の場合には,それらの粒子をボース統計またはボルツマン統計に従うとして取り扱う場合には「少なくとも1粒子は束縛される」事を意味する不等式が成り立つ事が示されていた。本年度は,まず前年度までの研究成果を論文にまとめて投稿準備を行った。投稿した論文について,Dirac-Maxwellモデルの基底状態の存在に関する論文は Publ. RIMS に掲載が決まった。論文内容に関して事項の修正が求められたので,不等式評価の精密化や議論を明確にするなどの改善を行った。また,非可換調和振動子の固有値に関する論文はJ. Math. Anal. Appl. への掲載が決まった(廣島氏と共著)。この論文の内容について,楕円型偏微分作用素についての既存の結果を適用する事により証明の簡略化が行えることがわかった。 前年度までのPauli-Fierzモデルに対する研究を発展させるため,粒子をフェルミオンとして取り扱い,W. G. Farisのinvariant coneの手法の応用を試みた。
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