本研究は、双曲型および分散型の非線形偏微分方程式に対して高周波漸近解析の方法によって非線形効果の現れ方を明らかにし、背後に潜む数学的構造を抽出することを主目的としている。本年度の前半は、空間2次元における非線形クライン・ゴルドン方程式系の解の長時間挙動に関してここ数年川原雄一朗氏と共同で行ってきた研究を非線形幾何光学近似の視点から眺め直すことから出発して、既に得ていた結果の精密化と証明の簡易化に成功した。その成果は論文にまとめられ、現在投稿中である。また、9月に浙師範大学(中国)で行われた研究集会においてこの研究結果を発表した。上記の結果は質量の比がある意味での共鳴条件を満たす場合にもエネルギーの増幅が起こらないための非線形項の形状に関する十分条件であったが、本年度の後半からは必要条件についての考察を開始した。まだ現段階ではまとまった成果には至っていないが、空間3次元における非線形波動方程式系に対しては、非線形項の2次斉次部分の符号の正負に応じて解の長時間挙動の定性に本質的な違いが現れるような例で、これまでに知られていなかった種類のものを構成することができた。より具体的に言うと、系の全エネルギーは保存されるがある特定の成分のエネルギーだけは時間に関して減衰するような方程式系の例である。来年度はこの例がどの程度一般化できるかを検討し、非線形項が解の長時間挙動に及ぼす効果の詳細を明らかにしていく予定である。特に零条件および弱零条件との関係を明らかにしたいと考えている。
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