本年度は非線形波動方程式と非線形シュレディンガー方程式に関して成果を得た。それぞれについて成果の概要を以下に記す。 ・空間2次元において3次の非線形項を伴う波動方程式の非線形消散構造について考察した。より具体的には、Christodoulou-Klainermanの意味での零条件が満たされない場合でも、非線形項の形状から決まるある関数が単位円周上で符号を保つならば解は時間大域的に存在すること、および、時間の増加ともに解のエネルギーが減衰することを証明し、さらにその減衰レートの評価を与えた。この結果は、上見練太郎氏が1990年代に提唱していた未解決問題の主要な部分を肯定的に解決したことに相当する。部分的な先行結果は久保英夫氏や星賀彰氏等によっても得られていたが、この論文の結果はそれらを全て含む最も一般的なものである。(片山聡一郎氏・室谷大輔氏との共同研究) ・小さな初期値に対する非線形シュレディンガー方程式系の解の有限時間爆発の例を構成した。多くの先行研究では方程式に付随した保存則であるビリアル等式に基づいたアプローチが採られていたため、解の爆発が起こるためには初期値がある程度大きいことが必要であり、任意に小さい初期値に対する解の有限時間爆発を扱ったものは(背理法による非構成的な少数の結果を除くと)皆無であった。これに対して本研究では、特殊な状況下では初期値がどんなに小さくても有限時間内で解に特異性が発生することを単純なモデルを用いて示し、爆発のメカニズムが一種の共鳴現象に関係していることを明らかにした。さらに、解の最大存在時間を初期振幅の大きさを用いて評価した。(小澤徹氏との共同研究)
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