平成24年度は、主に定数温度条件下での1次元形状記憶合金のFalkの方程式について調査し、以下の二つの結果を得た。 (1)不変測度の構成: 不変測度は再帰性など解の性質を調べるのに有効である。得られた結果は、Falkの方程式に対してGibbs測度とKuksinの方法による不変測度を構成したことである。Gibbs測度は滑らかな解の集合を台に持たないが、一方で弱解のある意味での時間大域的適切性を示すのにGibbs測度が有効であることが、Bourgainによって示されている。この手法を応用することで、Falkの方程式に対して不変なGibbs測度を構成するだけでなく、エネルギークラスよりも広い空間における「ほとんど確かな時間大域適切性」を示した。また、Kuksinの不変測度の構成法は、まず方程式に粘性項と確率外力項を付与した確率偏微分方程式に対して不変測度を構成し、次に同時に粘性と確率外力項のゼロ極限をとるという粘性消失問題を考えることで、元の方程式の不変測度を構成する方法である。この方法で得られる不変測度は、Gibbs測度に比べてより滑らかな解のクラスも台に持つことが特徴である。本研究は京都大学の堤誉志雄氏との共同研究である。 (2)安定な数値計算スキームの構成と誤差評価: Falkの方程式を含むBoussinesq型方程式に対して構造保存型の数値計算スキームを、降旗氏らによって開発された離散変分導関数法を適用することで、導出した。更にそのスキームの解とFalkの方程式の厳密解との間の誤差評価を示し、実際にFalkの方程式のオーステナイト相にあらわれるソリトン解の数値シミュレーションを行った。
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