1変数複素力学系のパラメータ空間の研究は、非自明なもので最も単純な場合である2次多項式族の場合は複素1次元であり、そこに含まれる有名なフラクタル集合である、Mandelbrot集合は容易に計算機によって可視化することができ、細部に渡るまで実際に見ることができる。実際にこのことは2次多項式族の研究に多大なる貢献をしてきた。 一方で、3次多項式族や2次有理関数族では全パラメータ空間は複素2次元、つまり実4次元であり、次数を上げれば更に次元があがるため、これらのパラメータ空間の中の複雑なフラクタル集合である分岐軌道や分岐測度の台を直接的に可視化することは不可能である。 この為、本研究ではエノン写像など複素2次元の相空間における力学系の可視化を行っている京都大学の宇敷重廣氏のプログラムを参考に、3次多項式族内の分岐軌道の可視化を行った。具体的には、Dujardin-Favreによる組み合わせ論ととstretching rayを用いた多項式族の分岐測度の近似定理を用いて、3次多項式族の分岐測度を数値的に計算し、また具体的に計算できる1-パラメータ族の例として周期3までのperiodic curveと呼ばれる族の分岐軌道を全空間内に埋めこみ、それらを宇敷氏の表示プログラムで、実3次元空間にリアルタイムに射影してOpenGLを用いて可視化することに成功した。 このように、高次元のパラメータ空間を断面などではなく全空間を計算して見る、という試みは初めてのものであり、計算機が十分高速化した現在に於いて初めて可能になったものである。今後さらに計算方法や描画方法を改善し、計算機が高速化することで新しい知見が得られることが期待できると考えている。
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